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公共施設マネジメントを進める上でのポイント
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 公共施設マネジメントを進めている自治体にヒアリング調査した結果、具体的な実施計画(出口戦略)へ展開している事例は少なく、その展開の過程において様々な課題があることがわかりました。そうした課題を踏まえて、公共施設マネジメントを効率的・効果的に進めるためのポイントを次の7つに整理しました。

 

1. インフラを含む公共施設全体を通じた“原則”をあらかじめ定める

 

 

 建物等の新規整備の抑制(ただし、目標の範囲内では新規整備を例外的に認める)、施設の統廃合、施設の多機能化・複合化、長寿命化の推進など、予め自治体として考える公共施設マネジメントの「原則」を規定しておくことで、より効率的・効果的に公共施設マネジメントを推進することが可能となります。公共施設マネジメントへの取り組みにあたり、施設に関する詳細な情報まで細かく丁寧に調べて分析し、息切れしてしまうといったケースを見かけますが、「原則」をしっかりと定めておくことで、議論が抽象的になることを避けることができます。

 

 例えば、関係者の調整を図る際、公共施設の総量圧縮が必要だといった総論には賛成してもらえるものの、個別具体の施設を対象に廃止議論をした途端、各論には反対されるといった状況に陥りやすい傾向があります。これではいくら方針を立てても、実現に至ることはできません。このように、総論賛成・各論反対といった状況に陥ってしまうのは、そもそも総論の時点で、十分に納得が得られていないからだと考えられます。「原則」をしっかり定め、総論の時点で納得・浸透させることで、個別施設の論議になっても、原則に従っていれば賛成せざるを得ないといった状況を作っておくことが非常に重要だと考えられます。

 

 原則を定める上では、土地建物及びインフラを含む、自治体が保有する公共施設全体を見通した上で、原則を定めていくことが非常に重要となります。

 

 昨今、橋りょうやトンネルなどのインフラの老朽化なども目立ち始め、それらに対する対応も必要性が高まってきています。現在、多くの自治体では、建物先行で公共施設マネジメントを進めているが、自治体予算にも限りがある中、建物とインフラとにどのように予算を振り分けて使う必要があるのかを見極めておくことが必要です。

 

 例えば、建物を中心に公共施設マネジメントを進め、個別具体の施設計画まで整備できていたとしても、いざ整備事業に着手しようとした時になって、橋の崩落などがあれば、そちらに先行して予算を回さなければならず、結局、数年間建物の整備は実現しないまま、また新たな老朽化が進み、計画自体が成り立たなくなる可能性もあります。逆に、建物先行で現金や基金、余剰地などを使って整備を進めた後で、インフラにも手をつけなければならなくなった時には、既に少しも余力が無いといった状況に陥る場合もあります。だからこそ、マネジメントの原則を定める上で、インフラを含めた公共施設全体を見通すことが非常に重要なわけです。

 

 公共施設マネジメントの原則をあらかじめ定めることで、単年度でスピーディにアクションプランの策定まで進めることができている、さいたま市の例を紹介します。

 

 

 さいたま市の場合、老朽化が進んでいる公共施設が多く、現状のままでは将さいたま(三原則)来の建替費用を確保できないことから、できるだけ施設を減らし・建替費用を減らすということを前提に、「ハコモノ」と「インフラ」のそれぞれについて3つの原則を予め設定しています。
「ハコモノ三原則」では、①新規整備は原則として行わない、②施設の更新(建替)は複合施設とする、③施設総量(延床面積)を縮減するとしています。
「インフラ三原則」では、①現状の投資額を維持する、②ライフサイクルコストを縮減する、③効率的に新たなニーズに対応するとしています。
こうした原則を予め設定することで、必要となる情報を効率的に収集することができるとともに、個別施設の方向性を設定する上で大きなよりどころとなっています。

 

2. 具体的な数値目標を設定する

 施設廃止と継続の線引きは、評価基準の設定の仕方により恣意的にコントロールでき、また、財政と連動していない場合は、具体的な話にならないといったことが、マネジメントを進める上で大きな課題となることが多くあります。

 具体的な数値目標を設定することで、ここまで減らさないと行財政が立ち行かなくなるということを認識してもらい、廃止に反対ということを言い難い状況をつくることで、具体的に進めていくことも必要です。

 さいたま市の公共施設マネジメント計画では、その方針に「数値目標を明示すること」を掲げ、現状・実態、期限・目標等を数値で明示し、進行管理することとしています。

 

3. 住民、議会への十分な情報提供と合意形成を図る

 

 公共施設マネジメントに取り組んでいる自治体では、公共施設の全体像を把握して白書としてまとめる、もしくはマネジメントの基本方針を整理する段階までは進められるものの、そこで息切れした状態になっていることが多くあります。その先、具体個別の施設の方向性をまとめて公表する段階までは、なかなか進められないというのが実態です。

 その理由の一つは、自治体内部の関係部局との調整とともに、住民や議会等との調整がうまく進められないといったことが考えられます。そのためには、検討過程の段階から、白書等で「見える化」した情報をできる限りオープンにし、わかりやすく伝えるとともに、様々な方法で、住民や議会等とコミュニケーションを取り、合意形成を図っていくことが必要です。

 住民や議会等と合意形成を図る方法としては、先駆事例を参考にすると、住民に対し、シンポジウムやワークショップの開催やパブリックコメント、アンケート調査を実施することで意識共有を図っていくなどの取組みがなされています。また、議会に対しては、定期的な情報開示を行うこと、自治体や住民との議論に巻き込むこと、議会側で議論する場づくりなどの取組みがなされています。

 例えば、さいたま市では、公共施設マネジメントに対する、市民と意識の共有と協働の推進を図るため、市民に対するPR活動として、地元大学との協働により子どもでも読みやすい、まんが版パンフレットの作成・配布しています。その他、シンポジウムを開催し、公共施設マネジメントの必要性を訴えるとともに、徹底的な討論を行いました。統廃合や施設削減というマイナスイメージだけにとらわれるのではなく、地域コミュニティの拠点となる“夢のある”複合化と考えられないかといった考え方が共有されました。

 また、平成24年3月に公共施設マネジメント計画方針(素案)に対して、無作為抽出型のパブリックコメントを実施しており、公共施設マネジメントの必要性を論理とデータで示したことで、大多数の市民から方針に対する賛成意見が挙げられており、パブリックコメントを通して情報を共有し、納得・浸透させることに成功しています。

 習志野市では、市議会内で「公共施設調査特別委員会」が設置され、各公共施設に対する評価や方向性について積極的に議論を行っています。

 

4. 方針及び計画の位置づけを明確化し、実効性を担保する

 

 策定した方針及び計画等は、総合計画や実施計画等の上位計画上への位置づけ、条例化するなどにより、位置づけを明確化し、その実行性を担保することが非常に重要です。
さいたま市では、「公共施設マネジメント計画」を、市の総合計画である「さいたま市総合振興計画」及び「しあわせ倍増プラン2009」を下支えするものとし、行財政改革推進プランと連動して、各政策分野の中で施設面の取り組みに関して横断的な指針を提示するものと位置づけています。

 習志野市では、公共施設マネジメントの取り組みが、市民に様々な影響を及ぼすとともに、長期間にわたる取り組みとなることなどから、「(仮称)公共施設マネジメント条例」を制定し、計画の実現性を高めるものとして、習志野市公共施設再生計画基本方針などに明記しています。また、平成26年度からスタートする次期基本構想・基本計画において、公共施設の再生が、自立的都市経営における重点プロジェクトに位置付けられています。

 

5. 実践による効果を検証・評価し、改善・改革につなげる

 

 個別の実施計画を実践に結びつければそれで終わりではなく、実践による効果を検証・評価し、それを踏まえて施設及びサービスの具体的な改善・改革を図っていくことが必要ですが、公共施設マネジメントという観点では、そこまでの取り組みを進めている自治体は、先駆的な事例でもまだ見られません。しかし、特に、実践する段階では、担当する部門が個別に進めていくことが多くなることから、部門横断での進捗及び成果を把握し、基本方針で設定した目標に対する達成度を確認し、必要に応じて基本方針やマネジメント計画、実施計画等の見直しを図っていくことが必要となります。

 また、進捗や成果の評価にあたっては、庁内での内部評価の他、住民や議会、専門家等を巻き込み、客観的な立場から目標との乖離を評価していくというプロセスが非常に重要です。そして、それらの評価結果を改善・改革につなげていくことで、公共施設の“マネジメント”を行っていくことが必要です。

 

6. 議論の発展段階に応じた柔軟な組織体制を構築する

 

 公共施設マネジメントの展開を大まかに時系列に整理すると、
  【第1ステップ】公共施設の実態把握段階
  【第2ステップ】マネジメントの方針策定段階
  【第3ステップ】実施計画の立案・実践段階
  【第4ステップ】基本方針及び実施計画の評価・改善段階
 といった、4つの段階に分けて整理することができます。

 基本的に、それぞれの段階において組織に求められる課題は異なります。自治体によって、公共施設マネジメントを担当する部署は、財産管理系の部署、企画系の部署、行革系の部署などさまざまですが、それぞれの段階によって求められる課題は異なることから、特定の部署だけでは、段階が移行したときに課題に対応できなくなり、展開が進まないケースがみられます。

 公共施設マネジメントの推進にあたっては、単独部署ではなく、部門間の連携した体制づくりが必須であるが、それに加え、取り組みの中心となる組織は、それぞれの段階で求められる課題に応じて、転換していくなどの工夫も必要となります。

 各段階で求められる課題を、調査結果をもとに整理すると下表のとおりです。

 

図表 取組み段階別の課題と推進組織

 

段 階

組織に求められる課題

推進組織

公共施設の実態把握段階

※データの洗出し、現状及び課題の
見える化(白書作成等)

Ÿ 公共施設全体のデータを各所管課から収集できるか

Ÿ 財産管理系

Ÿ 企画政策系

マネジメントの方針策定
段階

※基本方針及び全体計画の策定

Ÿ 方針を市全体の方針として位置づけられるか

Ÿ 住民・議会等との協議・周知により総論への理解を得られるか

Ÿ 企画政策系

Ÿ 行革系

実施計画の立案・実践段階

※施設個別の実施計画策定、実践

Ÿ 財政的な裏付けをもって実施できるか

Ÿ 各所管課及び住民・議会等との利害調整ができるか

Ÿ 財政系

Ÿマネジメント組織注)

基本方針及び実施計画の
評価・改善段階

※効果検証・評価とそれを踏まえた
改善・改革

注)所管課への調整権限を持った首長直属の体制が望ましい

 

 また、公共施設マネジメントを進める人材を育成するためにも、研修会等を継続的に実施して、庁内の意識改革を図ることも重要です。

 

7. マネジメントの基礎となる資産情報の洗い出しと一元化を図る

 

 公共施設は自治体にとっての経営資源であり、公共施設に関する情報は「経営情報」であると言えます。これらの情報は、適正に公共施設等の公有財産を取得、管理及び処分する目的で「公有財産台帳」に記載し、多くの場合、管財課や財政課等の財産管理を所管する部門において、台帳の管理・更新を行っています。

 しかし、台帳を紙ベースで管理している自治体もあり、また、これらの情報は「経営情報」であるにも関わらず、情報の精度に問題(公有財産の取得後、増改築等があっても反映されていない場合も多い)がある自治体も多い状況にあります。さらに、公共施設マネジメントにそのまま活用するには、分析に必要な情報項目が不足するため、追加の調査等が必要となります。

 また、この公共施設に関する情報は、情報を取り扱う目的の違いから、「公有財産台帳」とは異なるデータ項目、データの捉え方、更新頻度や情報の管理方法の台帳が、他の複数の部署で個別に整備・更新している場合が多くあります。例えば、「延床面積」の捉え方一つにおいても、施設の貸付等を行う部門では、実際に貸付先が利用できる面積として、柱の内側で面積を捉えるのに対して、施設の建築・営繕等を行う部門では、建設時の構造計算や管理等を行う面積として、柱真(柱の中央)で面積を捉えるといった事例もあり、データの捉え方の違いから、同じ「延床面積」でも台帳によって数値が異なることなどがあります。

 そこで、公共施設マネジメントの取り組みにあたっては、「公有財産台帳」以外に、これらの複数の台帳情報を収集し、情報を突合させながらマネジメントに必要となる情報を洗い出していく作業が必要となります。

 こうして洗い出した情報は、自治体の経営に変革をもたらし得る、出口戦略の基礎情報ともなります。そのため、各種台帳と連動して情報更新を行うことができ、かつ公会計等の財務情報と連動できる仕組みづくりが不可欠であり、各種台帳及び財務情報と連動した公共施設に関する情報の一元化を図っていくことが今後必要となるものと考えられます。

 

<浜松市の事例>

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