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さいたま市事例紹介
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1.さいたま市の取り組みの位置付け・ポジション

 

①2番手からのスタート

 習志野市や藤沢市等、さいたま市が始める前から公共施設マネジメントの取組をスタートしている自治体があり、そういった自治体の取組を見ながら進められたという点で、後発のメリットがありました。

 例えば、先行事例では、計画や白書を作ることが大きな目的になってしまい、活用するところまではまだ進んでいないのではないかと感じており、白書を活用するための工夫・留意点を持ちながら、取り組んだところです。また、一般的には、まず白書を作って、次の年に計画を作り、更にアクションプランと段階を踏んで進んでいますが、時間がかかりすぎることから、さいたま市の場合は、白書と計画を一気に作り上げました。

 対象についても、ハコモノのみの自治体が多いですが、さいたま市の場合は、ハコモノに加えてインフラも対象施設にしました。さいたま市で試算したところ、ハコモノとインフラ、将来の更新費用はだいたい同じくらいかかるという結果が出ており、インフラを見ずにハコモノだけを対象にしていると、全体の半分くらいしか見ていないことになってしまうからです。

 計画の実効性を担保するマネジメントの仕組み、特に財政との連動ということに留意しています。最大のポイントは、市民と如何に意識を共有化していくかであり、こういったところを当初から意識して取り組みました。

 

②大都市としての先行事例

 先行自治体は比較的小規模の自治体が多いですが、施設量及びエリアのいずれを比べても、そうした小規模の自治体での方法と同じように、さいたま市のような大都市で取り組むことは非常に難しいと考えられます。さいたま市は、大都市の先行事例という位置付けがあると考えています。



 さいたま(一人あたり延べ床面積の関係)

 

③好条件を生かし先導的な成功事例

 さいたま市は政令市の中でもトップクラスの財政状況です。また、さいたま市の1人当たり施設保有面積は2.07㎡と少ない状況です。全国平均が3.42㎡であり、政令市で比較すると、最も施設保有量が少ない自治体といえます。

 そうしたことから、公共施設マネジメントの観点では、財政的にも施設面でも最も恵まれている状況にあるさいたま市が、ある程度の成功事例として進めていかなければ、他の自治体はとても取り組めないということになるのではないかということで、成功事例となるべき使命感を持ちながら取り組んでいます。

 

2.取組の経緯

 さいたま市として行財政改革を推進していくという方針の下、平成21年11月に市長直轄の行財政改革推進本部を設置しています。この行財政改革推進本部の中で公共施設マネジメントに取組んでいこうとしたことをきっかけに、現在の取り組みがスタートすることとなりました。こういったトップダウンでスタートしていること、そして、行革・財政との連動、民間の専門家を入れているところが、さいたま市の取組の特徴であるといえます。

 これまでは、大きな方針及びマクロレベルでの計画を作成してきましたが、今後は2か年かけて、それを具体的に分野別の工程表を含んだアクションプランに落とし込んでいくこととなります。白書については、一度作って終わりではなく毎年度の更新を進めています。さらに、計画を作った後に市民と如何に共有していくか、一緒に進めていくかというところに力を入れて取り組んでいます。

 

 saitama2

 

3.取組のポイント

①ストーリーづけによる必要性の説明

 公共施設マネジメントは市民の方々に分かっていただくのが難しいことから、3つのシナリオという形でストーリーづけをして説明をしています。

 第1のシナリオは、今のまま何もしないで放置した場合、必要なお金をかけなければ老朽化で崩壊してしまうというシナリオです。

 第2のシナリオは、更新や改修のために無理に借金をして対応した結果、新しい施設ができても、いずれは財政が破綻してしまうというシナリオです。

 第3のシナリオは、何もしないわけにはいかないし、借金をして無理にやるわけにもいかないと頭を抱えていると、施設はできても、隣の施設はできないというような、なし崩しのシナリオです。

 市民の方々へは、第1も第2もできない、第3も厳しい状況だ。こういう状況を招かないための第4のシナリオを考えていくのが公共施設マネジメント計画なのだという説明の仕方をしています。

 全ての公共施設を維持していくことはできない状況にあるので、なるべく我慢をして、できるだけ工夫をして乗り切っていきます。そのためには、市民との意識の共有、協働で推進していくことが大事だと、これが公共施設マネジメントの取組みだということを伝えてきました。

 saitama3

②さいたま市の現状

 昭和45年~56年の高度経済成長期に一気に公共施設を設置してきた経緯があります。特に、高度経済成長期には人口増により学校をたくさん作っており、築30年から40年くらい経過してきているという状況です。さらに、公共施設、建物の全体の割合を見ると、51.4%と半分以上が学校であり、これが10年後、20年後には非常に大きな更新(建替え)の波としてやってくることが予想されます。

 続いて、インフラの状況は、さいたま市の場合は、人口増に伴う急速な市街地の拡大により比較的新しく都市整備を進めてきているので、上水道の管の耐用年数は約40年と言われていますが、40年を過ぎている古い管はほとんどない状況です。下水道も同様であり、耐用年数の目安と言われている50年を過ぎているものはほとんどありませんが、今後は古い施設がかなりの勢いで増えていきます。上下水道とも、今後の老朽化の進展が大いに心配される状況です。

 

 さいたま市は、今のところは全国的にも非常に若い、高齢化率の低い自治体ですが、団塊の世代よりも団塊ジュニアが非常に多く、この世代が若いうちは比較的高齢化率が低くて済むのですが、これが10年、20年たってくると、全国でもトップスピードで高齢化が進展していく、高齢者の数が増えていくことが予想されています。

 更に、さいたま市のエリア内を見ると、かなり地域によってバラツキがあります。市内でも郊外部は、完全に郊外型の高齢化進展、団塊ジュニアよりも団塊の世代のほうが多い状況です。すごいスピードで高齢化が進んでいるエリアもあります。一方で、南部の方、東京に近い方に目を移すと、逆に団塊ジュニアの方が非常に多い状況です。まだまだ人口も増加している、活力のある地域もあります。それから、全体になだらかな山になっている都心型、浦和区とか大宮区については、こういった都心型の高齢化が進展している地域もあります。市域が広いということもあり、地域性の違いについても考えていかなければいけない課題です。

 

③財政面での影響を財源ベースで精査

 財政面については、今後、更新・改修にどれくらいの費用がかかるかを試算しています。現状280億円かかっているものが、今後40年間の平均では697億円ということで、平均して2.5倍くらいかかるという試算結果が出ました。この試算をしたときに、確かに事業費ベースではお金がかかるかもしれませんが、特に学校施設等は、建替えのときに補助金がかなり見込めるので、実際どれくらい財政に影響があるかというのは、事業費ベースではなく、一般財源ベースで見ないと分からないのではないかという内部の議論がありました。そこで、さいたま市は、事業費ベースの試算を一般財源ベースに置き換えるという作業を行っています。

 その結果、一般財源ベースで試算すると、現状128億円のものに対して、40年平均で283億円ということであり、一般財源ベースで見てみても、年当たり平均で2倍以上更新コストがかかるという結果が出ています。やはり、一般財源ベースで見ても厳しい状況は変わらないというのが試算した結果でした。

 つまり、これから40年間、毎年毎年、今の2倍かかるということになるし、今の予算額しか今後とも確保できないとなると、今ある施設の45%しか更新できないということになります。こういうことを市民向けに説明をしているところです。

 こういった試算を踏まえて、さいたま市では、ハコモノとインフラに大きく分けた原則を設定しています。古い施設が非常に多く建替費用がかかりすぎるという状況がありますが、これに対応していくためには、2つしか方法がないと考えています。できるだけ施設を減らしていくか、建替えによるコストを減らしていくか、どちらかしかないということになるので、そのためには新設を抑制していくのか、あるいは、建替えのタイミングで複合化をすることによって施設の総量を減らしていくのか、長寿命化によって長期的なライフサイクルコストを減らしてくのか、こういった方向で対応していくということになろうかと思われます。それをハコモノとインフラに大きく分けて、三原則という全体目標を設定して取り組んでいこうということが公共施設マネジメント計画だと説明をしています。

 

④「ハコモノ三原則」「インフラ三原則」の設定

 まず、ハコモノについての三原則は、第1は、原則として新規整備は行わないという原則を立てています。ただ、どうしても建てなければいけない施設、需要やニーズの状況によっては新規整備する必要が出てくる場合があるので、第3の原則として、施設総量の縮減目標を掲げています。40年間で今の15%を減らすという目標を立て、この大きな縮減目標の範囲内では新規整備というものも例外的に認めることにします。つまり、新規整備は例外的に認めるけれども、新規で整備した分は、それ以上に他のもので減らしていくことによって、40年間では15%の縮減というのを堅持しましょうという原則にしています。施設の更新、建替えのタイミングで複合化をして総量を減らしていくとしています。ハコモノについては、新設の抑制と複合化というのが大きな方向性です。

 インフラについては、整備水準は他の政令市に比べてまだまだ低いという状況もあるので、一定のインフラ整備はこれからも必要だという認識は持ちながら、現状の投資額の範囲内で新規の整備と施設の維持・更新を賄うという、現状の投資額を維持することを第1の原則に掲げています。その上で、コストの縮減については、長寿命化を中心としたライフサイクルコストの縮減。それから、バリアフリー化や環境対応といった新たなニーズも発生していますが、そういうものについては更新のタイミング等で効率的に対応していく。この3点をインフラの原則として掲げたところです。

 

 市内の複合化の実際の事例等も踏まえて検討しています。特に、さいたま市の場合には学校が半分以上を占めているので、学校に公民館や福祉施設等を複合化させることによって、地域の拠点の機能としても高まり、防災の時の防災機能も高まります。こういった「コミュニティの核」という概念が出てきていますので、こういった方向で学校の複合化を進めていくことを、教育委員会とも連携をしながら進めているところです。

 また、インフラにつきましても、施設分野別にアセットマネジメント計画を作っていこうとしています。これは橋梁の例ですが、30年後には、50年以上経っている橋梁が8割を占めるようになるという予測もあるので、事後保全から予防保全に変えていくということで、70年間で310億円のコスト削減をしていきます。そういった橋梁の長寿命化修繕計画を立てたところです。

 そして、こういった大きな方針を、より個別の、分野別の方針に落とし込んでいくということが計画の実効性を担保する上では大事だと考えています。

 これは一つの例ですけれども、公民館やコミュニティセンターのコミュニティ関連施設については、設置の考え方と規模・機能の考え方で一定の基準を設定しています。全市レベルの施設は、全市で1施設にしていく。プラザ、コミュニティセンターについては、行政区単位で、行政区に2、3施設を目安に設置していく。公民館については、だいたい中学校区に相当する自治会連合会地区単位で1施設。これは、逆に言うと、今、連合会地区単位で2施設、3施設あるエリアもあるので、そういう地区については、将来的には1施設に統合していくことを含む考え方です。また、規模・機能についても、施設当たりの床面積の目安を設定して、過剰に大きな施設を作らないように抑制していく考え方です。

 

 インフラについても、それぞれ長寿命化計画の設定等、方針を立てています。上下水道も同様に、アセットマネジメント計画を作って、計画的に取組んでいく。こういう分野別の方針を立てたところです。

 

⑤マネジメントの強化

 こういった計画の策定を踏まえて、活用に向けてのポイントとして、マネジメントの強化、出口でのコントロールと入口でのコントロールを行っています。出口でのコントロールというのは、毎年度白書を更新することによって、毎年度毎年度の市の状況が結果としてどうなっているかということを年度単位でチェックをし、もし目標通りにいっていなければ、そこで修正をかけていくという、言わば事後的な対応を後追いでしていくのが出口でのコントロールということになると思っています。

 より重要なのは入口でのコントロールだと考えています。施設を整備したり、あるいは大規模改修をしたりするときに、事前にそれをコントロールしていくことが重要であろうと考え、その一つめの方法として分野別のアクションプランを作ることでコントロールしようと考えています。先ほど、分野別の大きな方針を説明させて頂きましたが、それを受けまして、より具体的な施設別の工程表に相当するようなアクションプランを作り、計画段階でコントロールしていくことを考えています。二つめの方法は、財政との連動につながりますが、実際に施設を整備・更新するときに、予算の要求をする前段階に、事前協議制度として、公共施設マネジメントの担当部署と協議をしていく。この制度を今年から始めているところです。

 

 分野別のアクションプランは、今年度は全体計画と白書を作り、2年をかけて、平成26年度までにアクションプランを作りたいと考えています。対象分野ごとに、個別方針、目標、工程表が含まれるような計画を想定しています。

 平成24年度にマネジメント全体計画を立てまして、平成26年度からアクションプランをスタートさせるわけですけれども、プラン自体は全部で40年間の計画期間をとっていますので、それを概ね10年ごとに4期に分けてアクションプランを設定し、期ごとに見直しを、ローリングをかけていくという考え方にしています。

さいたま(アクションプランアウトプットイメージ)

 

 これはアクションプランのアウトプットイメージですが、分野ごとに、まずは個別方針として設置と規模・機能の考え方、基準を示し、マネジメント目標として施設総量やコストをどれくらい削減するのかという目標を立てます。市内の配置図を載せた上で、改修コストの将来予測をグラフに落として、とりわけ第1期については、施設別、年次別にどういった取組をしていくか、こういった大まかな構成のアクションプランを考えています。

 そして、事前協議制度ですが、アクションプランができると、アクションプランの時期にそれぞれ整備に関わる予算要求をしていくことになるので、その時期が来たら、今作成しているチェックシートに従って各所管から施設整備に関わる内容についてチェックシートを上げてもらい、事前協議をした上で、必要に応じて戦略会議にかけて、予算要求に回していきます。主なものはチェックシートを出してもらい事前協議にかけ、それ以外についても、自己チェックとしてチェックシートを必ず作成してもらうことを考えているところです。

 これは、今年度、新しく始めた制度なので、やりながら改善していこうと考えていますが、スタート段階では、延床面積が200㎡以上のもので大規模改修を除く建替えや新築等については事前協議を行うかたちで制度をスタートさせたところです。これを構想、計画、設計、それぞれの段階でやっていくことを想定しています。

 

⑥市民との意識の共有・協働の推進

 この公共施設マネジメントを市民に説明していくときに、総論についてはある程度ご賛同いただけるのですが、身近な施設については困るという各論反対が出てくるのはどうしても避けられないところですので、少しでも市民の皆様に分かりやすくお伝えしていこうということで、地元の埼玉大学のサークルとの協働よって、マンガ版のパンフレットを作成したり、シンポジウムを開催したり、出前講座を実施しています。

 今年以降の取組の柱としているのが、施設の複合化はイメージがしづらいので、具体的なケースでその良さをお見せしていくということで、モデルケースを設定し、ワークショップの形で市民の皆様に参加していただいて、実際、施設の複合化はどうやって進んでいくのか、どんなメリットがあるのかということを実感していただく取組を始めています。こうした活動は、ワークショップレポートをまとめて、ホームページで公開しています。